梅雨/なまねこ
れたのか、皮がひどく傷ついている。黒ずんだところを押すと、じゅっと果汁があふれ、それは雨に溶けて砂に沈んだ。りんごには話さない。今までのこと。あの老人が船に乗るということ。あの晩泣いていたこと。
海に放り投げると浮き上がった。もう傷つくこともない。うまくやれば、ピザ・トーストの横に並べるかもしれない。雨で飛べないカモメが下手な笛を吹いた。
大きな生き物ほど小さな傷を気にしていた。そのにじんだ血を僕は舐めてきた。武器を握り締めたその生き物に睨まれながら、僕は舌を出した。そうして傷の治りを共に見ていたかった。話を聞くことはなかった。言葉がわからなかったからだ。壁の無い部屋に鍵をかけて、大きく息を吸
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