Street people/月乃助
 
空色が失われた夕暮れ
プラタナスの老樹は幾重もの
たわんだ ながい枝
微風が、
せわしなく滑り抜ける

教会につづく坂の並木は、
夕日に染められ

刈り込まれたばかりの
青い芝生の上に
車の音さえも
人の目にも あらがい
横たわる

そろえた 靴
ぼろぼろに色が剥げ落ち
主人に身を寄せ

腹ばう黒犬は、しずまり
眠りをわかちながら
鼻をならせば、

草臥れ果てた寝袋の外に
夢さえみることのない
縮れた女の黒髪が這い出す
通りに生きる乾いた眠りを
束の間貪る

かまいもせぬ 夕陽は、
縁の不定形な影を足元になげつけ
その上を駆け去る春風の
行き先は白亜の教会

紅く染まり始めたその壁を
眠る女を離れた影が、
行き止まり
黒蛇さながら這い上がる
疲れ果てた そのせつな
赤い舌を一瞬 差し出して
見せた

それは、見捨てられた
夕街模様
春の街景色
誰ひとり足もとめずに
過ぎていく




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