私は夜桜/しべ
薄ぃ暗い夜道ぁぁ濃密な夜霧
畝をとろかす二つの雲が太郎
工場と樫の森と琥珀とこぶし
ちっちゃく気高く可愛らしい
七分ざくらで雪の香り 艸
夜道は月明かりの妖しい仲間
水の浮いた田んぼに太郎と春
高速道路をかきむしるのは橙
大人の助手席で
瓶コーラの底に
とっぷりと月。
遠く釣鐘星を眺め
緩斜瀑と麓の塵を
おもちゃも買えず
睨んでた 橙
白く渦巻く空中に
口紅色のボンネットが
シッカロールの蓋のごとく
スパイダーの影を撒き散らして
疾走する
針先で
突っついたように
頬に帽子に
肩口に
前輪に
蕊を泡立てふるまい酒に
天神の月の岬に
桜の中に
それは父が運転手だった頃の話。
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