笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
私」ほか複数人であり、言葉を剥がす主体はある一人の他人である。客体として言葉を受け取るのはある一人の他人であり、客体として言葉を剥がされるのは「私」ほか複数人である。引用部においては言葉を剥がす者と剥がされる者が交代しているのだ。このような主体と客体との交代は、ほかにも、『道標』(鳴き声を聴く者と鳴く者が交代する)、『なまえ』(見つける者が見つけられる者になり、なまえを知る者がなまえを知られる者になる)、『スポンジの木』(したたらせるのを見ている者が、自らしたたらせる)、でも見られる。
主体や客体が入れ替わるパターンを少し分類してみる。まず文に出てくる動詞が自動詞の場合。「Aが鳴く」を基本形と
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