笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
α)(5β)の他動詞に関する片面的主客交代の類型では、主客交代が起こるだけではなく、文の構造の中に新しい要素を引き受け、主客交代が次々と無限に連鎖していく予感を読者に抱かせる。「私は夜を食べる/昼は私を食べる/あなたは昼を食べる/朝はあなたを食べる/…」といった具合にである。この連鎖の予感、広がりの予感が読者を楽しませる。
他動詞に関する片面的主客交代は、主客交代の楽しみを閉塞感なく、広がりの予感とともに読者に味わわせる。引用部では「その向こうでも/耳そうじをする人/そしてその向こうにも」という風に、主客交代の無限連鎖を明示的に示し、読者に遠くを眺望するような感覚を効果的に与えている。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)