笹野裕子「今年の夏」をめぐって/葉leaf
 
ないと
すっきり眠れない
とくべつ念入りに耳そうじをする
ティッシュペーパーを一枚広げ
耳から剥がした言葉を並べていく
(中略)
きっとどこかで私の言葉を剥がす人がいる
深い闇をはさんで
私はその人と向き合う
その向こうでも
耳そうじをする人
そしてその向こうにも
        (『剥がす』より)

 引用部の前半では、言葉を発する主体は他人達であり、言葉を剥がす主体は「私」である。客体として言葉を受け取るのは「私」であり、客体として言葉を剥がされるのは他人達である。だが、引用部の後半では、前半における主体が客体になっている。引用部の後半では、言葉を発する主体は「私」
[次のページ]
戻る   Point(1)