月の引力/salco
 
、神は破滅を望んではいないだろう。そして全智全能の
神が無限の絶対者であるなら、微細な単細胞生物に過ぎない人間の破壊
行為など関知しない。即ち神を唱えて他者を、同胞を異教徒を攻撃する
狂信者の大義は既に破綻している。
人間だけが破壊を希求するのだ。それは低劣な獣性の解放であり、カニ
バリズムの法悦でしかない。地上には絶望しか残らない。

さて二人の宇宙飛行士はイーグルの梯子に足を掛ける。
時は短し酸素は少し、厳重に遮蔽しているとは言え土砂降る電磁波も危
険である。
白黒映画の世界へ迷い込んだような、悪い冗談としか思えぬ景色に名残
は尽きぬ気もすれど、おっちゃんは行かねばならぬ
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