最初の音/高梁サトル
{引用=
降りてくる朝の手綱を引いて
静寂の中にひっそり佇む戸口を叩く
小径を満たしてゆく血潮が瞼を温める
レンズの向うに産まれた半透明の結晶が
ぶつかりあって溶けてゆく
あらわれたひとつの流れの
離ればなれになった対岸に焦がれて
波が波を飲み込んでゆく
膨らんだ波紋が乾いた素足を誘う
蒸留酒を呷って沈む
小さな螺子がゆるゆると解れてゆく
輪郭を崩して同化する不定形の春
掌で踊る花弁によろめく
いつまでも訪れない夕暮れ
従順な指先が震えて
曇った薄い硝子を鳴らす
海鳥の真水を閉じ込めた水瓶が割れて
塞いだ耳から零れる嗚咽
欠けたまま埋め尽くされ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(13)