君がここにいてほしい/薬指
にいてほしい
長い眠りから覚めたとき
いつも頭の中に浮かび上がるのは
いつか見た透き通るような青空を
通り過ぎていく飛行機が引いた一筋の雲
海の底をゆっくりと泳ぐ大きな魚
そういう重苦しいシンボルを
簡単に引きはがしてくれた君の白い手
わざと遠回りして君を手に入れようなんて
やめたほうがいいって
誰かが忠告してくれるのを待っていた
いま会いたい
君がここにいてほしい
子供のころ大人たちから取り上げられたものを
一つ一つ取り返したとしても
胸にあいた穴を塞ぐには
なんの役にもたたないってことを
まるっきりわかっていなかった
僕は深く考えもしないまま
ごく自然に君を失っていた
なにかが間違ってると僕は思った
まったく別の生き方をしてみてもよかった
君と出会って握手だけを交わして
それっきりの人間に生まれたってよかった
電線の上で鳴く烏が
吹きつける横殴りの風が僕を
まるっきり出来損ないだってあざける
いま会いたい
君がここにいてほしい
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