ANOTHER GREEN WORLD/カワグチタケシ
僕はなにかを思い出そうとしていた
なにを思い出そうとしていたのか思い出せない
ただなにかを思い出そうとしていた
感触だけがはっきりと残っている
水槽が切り取られ宙に浮かぶ海だとしたら
缶ビールとは切り取られて宙に浮かぶ醸造槽だ
*****
僕らはそれぞれの場所で
それぞれに目覚める
だから君に追いつくことはない
たとえ自転の速さで走ったとしても
僕らには結局のところ
期待したような偶然が起こりそうな
場所に出かけていって期待したような
偶然が起きるのを待つことぐらいしかできない
薄暗いバスの車内で受信する電波が
僕らの親密なことばをさえぎる
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