冬納め、あるいは虐殺の予兆に関する記録/ならぢゅん(矮猫亭)
 
 冬納めの儀式は古来より西院にて執り行うものとされている。その間、本尊は伏せられ、黒いラシャ布が被せられる。これを本尊隠しと称する。永年、雪守家の末子の役目とされてきたが、鴉葬以来、毎年、隠し役を選ぶことが村主の最も重要な仕事となった。隠し役の要件は年によって異なる。十八年前には碧陰核をと泉告げが下り、村主は自分の娘に植碧するほか術がなかった。
 本尊が隠されると納女が招き入れられる。泉のほとりの荒小屋に棲む老女。齢い二百を超えると噂される。平素は疎んじられ声をかける者さえいないが、泉告げを聞くのも冬を納めるのも、この女にしかできない。著しい水勢のために真冬も凍らぬ泉。女は小さな杯に泉水を汲み、
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