日本むかし話  妖怪糠肉擬/salco
 
娘が下総の網元へ嫁ぐ日も
ひょっくり出て来おってな。大事な一人娘を出す心づくしで手間掛けた
そりゃあ見事な打掛けに
「ボクチ、ボクチ」
と張りついたものだからたまらん。
金糸銀糸の唐織にもう手垢がべっとりよ。
慌てて脱がせて江戸まで洗い張りに出すやら嫁ぎ先へ飛脚を走らせるやら
かわいそうに、幸は泣きの涙で臥せるやら婚礼は三月も遅れるやら
大した騒ぎじゃ。
その上、困ったことには
前の年に御狩場が山火事で半分がたのうなってしもうたので、
二年あとの夏には新しいお山へのお通りに村道が使われることになって
おったのじゃよ。
村の者は慣れておるが、殿様のお籠に「ボクチ」やられた日
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