馬刺し/ふくだわらまんじゅうろう
「母さん
あの日の馬刺しは今も
あの味のままでしょうか?
そうなのでしょうか?
もしそうだとするのなら
ぼくはどうして
どうしてこのまま
こんなつまらないぼくのまま
生きてゆけましょう」
今日の日の馬刺し
ひとつまみ
にんにく
しょうが
目にしみる
君は言う
そこに慰めはない、と
しかし、どうだろう
ぼくらが求めているのはなにも
そんなにちっぽけなものなのだろうか
あまりにも大それた
命の交換
だからといってぼくは
君といっしょであの草原を
どこまでもどこまでも
このホルモンの力を借りて
あるいは脂の恵沢だとか
君の内緒話の真髄
息が切れるまで遠くへ
遠くへ
目にしみる
にんにく
しょうが
ひとつまみ
今日の日の馬刺しの切れ味の
真髄を求めて
そこに立っていたわけでもないのに
ぼくは今日も
一日働いて
そう
転職もいいね
だけど今日の日の馬刺しのぷるぷるの
その一口を
愉しみに
戻る 編 削 Point(2)