故郷/AB
 
椅子の上に瞳は
氷の壁のように
置かれていた

向かいの椅子に座っていた烏のような女が
少女に声をかけると
置かれていた氷は溶けた
まるで氷ではなかったかのように

烏の烏らしい声は
瞳に吸収され
身体中にゆっくりとしみてゆき
少女は
うなずいた
細く白い指のような陽のひかりが
少女をつつんでいた

鳶の
繰り返される大きな旋回
それによって切り取られる青空に
少女は絵を描いた
鳶と烏、そして少女が
みな、おなじひかりにつつまれている、折れそうなひかりに

描き終わると
少女の眼から
血が滴下した
スカートが赤く染まってゆく
鳶の旋回はやがて透明化してゆく
烏が烏らしい声で鳴いた
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