消臭考/salco
を取り、見たくなければ目をそらせばいいし聞きたくなければ暫時耳を
塞げばいい。しかし呼吸しないわけには行かないのだ、吸気に付随して
来る匂いは防ぎようがない。ならば寛恕するしかない。いや忍受か。
渋谷を根城にしている浮浪者(ホームレスというより、頭がいかれてい
るので正真正銘の浮浪者)に凄いのがいて、腰までの毛髪が板状のナチ
ュラル・ドレッドになっており、五メートル圏内に入ると目が痛くなる
ほど強烈な臭気を放っていた。券売機の釣銭忘れを探っていたが、滅多
に出会えない匂いを嗅がせてくれたと思えば却って有り難くさえある存
在だ。勿論、その後に出会った時は息を止めて歩を速めた。
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