spring has come/within
 
ぼくの町の
冬と春の境界は
一日で線引きされたように
唐突に 暖かな風が吹き抜ける

山に一方を封じられているものの
海からは潮の匂いとともに
サイタ川をさかのぼり
荒んだ寒風を
穏やかな暖流が
なだめにやってくる

そんなとき ぼくは走っていた
走り出すことに
疑問を持たず
ただ欲動にまかせてしまうことを選んだ

春の祝い 春を祝う

祝いは
受ける者と入る者の
混淆を希釈する

おいり という 紅と白の 玉の米菓子が
祝いの徴
無造作に食べる子供らをよそ目に
祖母は透明なプラスチックの器に密封して
ガラス細工のように
アップライトピアノの上に飾った

閉じ込められた若い番いは
この町に彼女の手で
幽閉されたのかもしれない

冬の間に枯れ草を燃やしてしまう
皆が草を焼く姿を
ぼくは二階の窓から眺めている
父は何も言わない
何も言わず ぼくを集落から遠ざける
静かに 忘れられてゆく
だから次は 来訪者として
再び扉を叩くのだ

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