毒婦の系譜/salco
 
の転落事実も見出せない。労働するなり、
気にそまぬ相手に目をつむるなり、いくらでも選択肢のあったこの女に
は、ただ数千円の日銭を手に入れる為に殺しをやるタクシー強盗などの
短絡性、刹那性に比較しても、自堕落が招く身辺の淀みや野卑な人間性
から匂う呪詛が感じられない。
まるで工業製品の反映でしかないショーウィンドウの陳列にも似て、極
めて些末な価値の絶対化に基づく規範に則り粛々とおのれの行動を方向
づけていただけで、この女に内在するのは知能犯の狡知というより寧ろ、
ぞっとするほど鈍重な空漠なのではないだろうか。
自分にとっては有象無象でしかない金づるを面倒嫌さに殺したという以

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