冬越え/within
 
日が長くなってきた
暖かい日がちらほらと
そろそろ学生遍路が道に迷い
路傍で空を見上げる頃か

蝉の鳴き声が聞こえる
まだ冬の終わりだと言うのに

耳鳴りだろうか?
幻聴だろうか?
それとも遠くで
本当に鳴いているのかもしれない

「冬の間に寺で中風封じの大根炊きを
頂くとええ」
と叔母さんが言う
僕は
「まだ大丈夫です」
と苦笑いをしてやり過ごす

小学生の頃
寺の住職の孫と仲の良かった僕は
何度も寺の山門をくぐり
静かな境内で友達の名を呼んだ

しかしもう訪ねることはない
いつしか僕は禁忌のように扱われ
外の世間は遠いものとなった

大根炊きは今も行われているが
寺の住職は知らない坊さまが継いでいる

戻る   Point(13)