幼い頃から爬虫類や両生類や昆虫が大好きで
森の中でそんなものたちと出会ったら
木苺にでもなって食べられたいと思ってた
青々と茂った中にちらほらと咲く白い花
水底の砂利まで見える谷川
孵化する蜻蛉の透通った羽
そんな在るだけの生命に成りたくて
ずっとずっと憧れて眺めていた
・
だけど日が暮れ始めると途端に心細くなって
灯を求めて駆け足で家路についた
暖房のきいた温かい食卓で
シチューを啜りながら幸せを感じて
ああ
少し思索することを覚えただけの
結局これが私なのだって
銀色の無機質なスプーンをぼんやりと眺めた
分かり合えるはずなんかないものに
どうして
心のどこかで応答を望んでしまうのだろう
不毛な幻想を抱くのは人間の特権ね
・
ある冬の朝だった
畑で野菜の種を蒔いていたおばあちゃんが言ったの
「春の訪れを待つ気持ちは皆同じね」
「だから父さんの名前は“ハルミ”なのよ」って
それは生命が共存する為のすべての源なんだって
その日私は
不甲斐ない自分を泣くしかなかった