私を殺す/なき
 
らブラックアウトした。階段を転げ落ちながら「あぁ、これは死ぬな」と考えた。呑気だった。周りにたくさん人がいて、でも誰も振り向いてくれなかったからかも知れない。転げ落ち、意識が薄れていく間、赤い顔の鬼とずっと見つめ合っていた。階段の、上と下で。夢を見ている時は必死だ。いつも、目が覚めてから、ぞぉっとする。

 夢には意味があるのだそうだ。空を自由に飛ぶ=今に満足している、とか。解釈によってまちまちだから正しい答えはわからない。ちなみに誰かを殺した夢。それは不思議なことに、殺した相手は自分なのだそうだ。殺すのも、殺されるのも自分。だとすると、殺されるのも殺すのも自分なのだろうか。ヒーローだった私は、社会的な権力に従う私に殺された。駅の中を逃げ惑う私は、私の中の鬼みたいな部分に殺された、ということかな。あんまり、いい夢でないなぁ、と思う。
 殺された私は、どんな私だったのだろう。私に殺されてしまった私。
 殺した私はどんな気持ちだったのだろう。私を殺した私。
 どちらも私、というのは、酷く不思議だ。でも心のどこかでそのことに当たり前のように納得している私がいる。
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