贈りもの/服部 剛
 
机の上に、一つの箱がある。 
密かに胸の高鳴るまま 
蓋を開けると小人になった、
星の王子様が僕を見上げて 

「ほんとうに大事なものは、目に見えない」 

と呟いてから
煙になって、姿を消した。 

空っぽになった箱に僕は 
新しい日記帳と
一本のペンを入れて、蓋を閉める。 

誰も見ることの無い箱の中で 
風に捲(めく)れる空白の頁(ページ)に綴られてゆく 
私が主役、の物語。 


  *


目覚まし時計のベルに
身を起こすと、カーテンの隙間から 
いつもの朝日が、射していた。 

星の王子様の声だけが耳の奥に、木霊(こだま)する。 

ベッドから下りて、のびをして 
鏡に映るひとを見たら 
不思議な親しみが、湧いて来た。 

何の変哲も無い
自分という名の人形が
世界に一人の、贈りもの。 



 ※ 2連目は「星の王子様」(サンデグジュペリ・著)の引用です。 







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