ミノタウロスの竪琴/高梁サトル
 
{引用=
この胸に住まうミノタウロスは
私が死んでも幾等も嘆きはしないだろう
あれの愛した竪琴を
私が壊して極寒のヘブルス河へ捨てたから
あれは今も代わる竪琴を探しているのだ
だから私は死んでも灰も残らない
跡形もなく風に舞うことすらない
暗闇に住まうプルートンのか弱い両目では
竪琴が鳴らす目印なしに
私を掴まえることは出来ないのだから

私は 透けて 溶けてゆく
大気の合間に 草木の合間に
動物の合間に 爛熟と衰退の合間に
それを掴まえることが出来るのは
歌謳いの旅人たちだけ
彼らは花のほころびに
赤ん坊の産声に
大地に染みこんだ雨跡に
それを見つけること
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