催眠術師/楽恵
 



(貴女は、だんだん、眠くなる。)


欲望はいつも、最後に瞳孔をひらかせる。

深く閉ざされた眼をもつ者の数だけ、暗い夜の、虹をみる。

荒野を疾走する犬の群れ。


(どうして、そんなに眠らせたいのですか?)


私に残された遺品は外套だけでした。

真冬の夜の夢。

橋のうえから河へと捨てられた冷たい猫の骸。

溶けていく光彩。

永久不眠。

未発掘の青い資源たち。ラビの祭典。黙祷。


(愛のためなら、あの人も埋めてください。)


アラビア盗賊に無理やりこじ開けられた、棺おけ。貴方と私、共に眠るために。


(さらば、我が愛。)


轟音。風でなく、前世のカルマと、黒瑪瑙にふちどられた瞼。

もう一度、生まれ変わるため、身をゆだねる

催眠術師の夜。





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