それでも君が欲しかった。/高梁サトル
 

君の指先が触れて、それだけで僕を揺らしてしまう。
君は知らないだろうけど、心の中ではずっと惑ってた。
世界にも君にも飲み込まれたくなくて、ずっともがいてた。

 「ねえ、
 もう一度キスしたら、
 きっと僕らの世界は変わる」

それが怖かった。
硝子細工のように脆い気がして。
立ち尽くしたまま、何もできなかった。
触れることさえも、いつも、
逃げ消えられるように、違う姿を借りて。

僕らはただの臆病者だった。
ただの能無しだった。
ただの恋人だった。
それ以上でもそれ以下でもないって言葉に縋っていたのは、
それ以上でもそれ以下でも耐えられなかったから。

だけど、僕はあの日。
別の世界に触れて君の扉をノックした。
知らせてあげないとと思ったんだ。
鳥があんなに空高く飛べることを、
草原が朝露に濡れて輝いていることを、
夢から覚めても心が晴れていることを。
全部、全部。
あれもこれも。

知らせたかったんだ。
知らせたかっただけなんだ。

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