灯のひと /服部 剛
気づいたら、すでに私でした。
鏡に映っている、ひとでした。
産声を上げる場所も
時代も
両親も
自分という役を選ぶ間も無く、私でした。
砂浜を往く、亀に憧れ
黙ってそこに在る、石に憧れ
風の吹くまま旅をする、雲に憧れ
鏡に映るひとを
あんなに脱ぎ去りたいと思った夜さえも
自らを棄てられずに
今・ここに・こうして立って
息を吸っては、吐いています
私があなたの前に立つ時
互いの姿を瞳に映し
まったく違うそれぞれなのに
何処か似ている、一つの声が
静寂(しじま)に聞こえる、夜があり
私があなたの前に立つ時
今宵、互いの瞳に揺れている
ひとの姿の、あの灯(ともしび)が
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