詩人のレンズ /服部 剛
 
雨の中を走る 
新幹線がトンネルに入れば 
水滴が、ひとつ 
曇った車窓に一筋の 
線を、貫いてゆく 

旅帰りの僕の 
手元に開いた「窓」という本から 
語りかける、古(いにしえ)の詩人の声は暖かく 
溢れるようなまなざしで 
子供等の手を取りながら道を歩み 
本の頁から頁へと 
足跡を、貫いてゆく 

「上野に到着、致します」 
女性アナウンスが車内に、流れた。 

列車が停まると同時に 
ひとつの水滴も 
窓にぴたり、と停まり 
丸い姿のレンズになった。 

腰を上げて 
レンズ越しに眺める、小さい世界。 

上野駅のホームを横切る 
荷物を背負った旅人達が 
何故か無性に愛しく思え 
窓に身を屈めた僕は 
ひと時、目を細めていた。 







戻る   Point(3)