高野山物語/済谷川蛍
ると爺さんは乗車券もとらずにさっさと空いている席に座った。バスカードを通し、爺さんの分の乗車券を取った。混んでいたので席は別々になった。金剛峯寺前で降りる。爺さんを探すと既に降りていた。金もないのに、これも神通力かと思いながら降りようとすると、運転手が慌てて「ちょっと」と言い、あんたの連れだろみたいな感じで爺さんのほうを指さした。爺さんは金剛峯寺の石段を上がっていた。
様々な場所を巡って奥の院に着いた。弘法大師が眠っている場所だ。墓所から御廟までの道のりは遠く、歩き疲れたが爺さんは平気な様子だった。爺さんは御廟の前で神妙な顔つきで聞き取れない言葉を喋っていた。
犬は見つからなかった。
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