高野山物語/済谷川蛍
近づけると水に濡れた。花の匂いが部屋の中にも漂った。とても懐かしい感じがした。振りかえると、爺さんは今までにないくらい表情を変えていた。それは、ひどく郷愁じみていた。
「ニィーコニコ動画」という声が聴こえて画面を見たらすべてが元通りだった。
母から電話があった。仕送りはちゃんと届いたかという電話だった。猫たちはいまどうしてると聞いた。うちでは3匹の野良猫を飼っている。ミー、クッチ、あともう一匹の名前は忘れた。母が冷蔵庫からかつおぶしを出して猫を呼んだ。ミーが来たらしい。電話口で「ミー」と呼んでみる。電話を切ったあと爺さんが「わしも、犬を飼っている」と言った。「懐かしい。逢いたいな」
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