高野山物語/済谷川蛍
るのだ。食器を洗う。
散乱していたプリントをとりあえず積み重ねる。足の裏がざらざらするのでカーペットに掃除機をかけた。ベッドに鎮座しルーシアに火をつけ、一服した。爺さんはキャスターを1本とり、吸っていた。お互いに無言だった。悟った人間に言葉は邪道な感じがした。爺さんはタバコをベッドの端に柵で軽く叩きカーペットに灰を落とした。
灰皿を脇に置く。私がタバコといっしょに紅茶花伝を飲むのを興味ありげに見ている。頼まれたわけではないが近所の自販機まで買いにいった。爺さんは差し出された缶のプルタブを開けた。部屋はどうやら爺さんのいるおかげで暖かかった。バイクの群れの騒々しい音が響くと爺さんを中心として
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