(無題) /服部 剛
鏡に映る、私という人にはすでに
数十億年のいのちの記憶があり
数え切れない先祖達の声があり
鏡に映る、私という人にはすでに
宇宙の初めの爆発と
宇宙の終りの暗闇が
今も密かに膨らみ続けており
そんな奇跡を秘めている
私という人は、今日も
陽が昇ってから沈むまで
今日はとさようならを
延々と何処までも繰り返し
宇宙の闇にぽつん、と一つ
青い惑星(ほし)の浮いてることは
顕微鏡でも見えない、無数の人々が
時に誰かと盃を交わし、時に独り頭を抱え
笑いと涙の物語を日々織り成しているのは
恐るべき凡庸なる夢の、不思議です。
(ほら、今日も人のふりした宇宙人が
あなたの前を、いつもの顔で
通りすぎる )
あの人も
この人も
私自身も
何かに背中を押されるように
一つの交差点をそれぞれの方角へ
進んでいるのは
遥かな空から地上まで
ぶら下がるピアノ線につながれた
宇宙の意思による、進行です。
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