「えいえん 佳子1997 冬」「鳥の唄 2000 冬」全面改定版/ダーザイン
 


 そして、いよいよ耐えられなくなると、毎日日没時に窓辺から恐怖に慄いた目で夕日を眺め、
「つれてかないで、向こう側へ連れてかれちゃう、淋しいよ、淋しいよ」と泣き喚いた。
佳子によると、夕日の沈むところには大きな海の背中が黒々とうねっているのだという。大海嘯や山脈の褶曲のような巨大なうねり、そして失った麦藁帽子を追えば、星灯りのない空は真っ暗で、丈低い草に足を濡らしながら海岸丘陵を下って海辺に立てば、波打ち際には薔薇石英の砂浜がほの暗く光っている。海面には雨が降り注ぎ、絶えることなく降り注ぎ、空と海の境界は鉛色にけむり、薔薇石英の浜辺には骨のように白い流木が打ちあげられている。その側に、さ
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