【批評祭参加作品】うたう者は疎外する/される/岡部淳太郎
てようとしてつくり上げたものだ。人間は本能的に混沌を恐れるから、何としても自分の身の回りを秩序立てておきたいと思う。混沌を整理し分類し、ひとつひとつに名を与える。そうして混沌を排除し、自分たちの社会をつくり上げる。だがいっぽうで、混沌を完全に秩序の方に組み入れることを、人間はしてこなかった。それは単に、文明の発達の度合いがまだ浅かったゆえに組み入れきれなかったというだけではない。おそらく、人間は精神の深層のどこかで混沌をそのままにしておきたいと願ってきたのではないだろうか。人間は自分たちがつくり上げた社会のシステムが原初の混沌の大きな力の前では時に無力であることを知っていた。だから、社会が揺らいで
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