透明で無害な煙草、倍速で行われる会話、無目的的な快速電車/robart
いた。そんな気がした。僕は眉をしかめ、じっと彼を見た。笑っていた。列車は加速度的に駅を離れていく。僕は体制を立て直し、彼が何を言ったかを(なぜかは全く解らないが)理解した。理解できてしまった。
「月と彗星、どっちが好き?」
何かが始まった。そんな気がした。静かに、少しずつ、世界が変わる。ゆっくりと自分の選択範囲が狭められ、それとなく居場所がなくなっていく。そんな気がした。間違いなく、やっかいなトラブルの始まりだった。僕はつり革も握らず、ただ呆然とほとんど沈みかけた夕日を見つめていた。列車はきちんと僕を目的の駅へと運んでいってくれた。どこかはわからないけれど、本当の目的地へは自分でたどり着くしかなさそうだった。
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