滑った感じ/八男(はちおとこ)
計に。生身じゃなくて生身。半生。やっと自身の生き方を見つけたようで、外出するとき、これがかかせない。もちろん、文庫本を入れて。文庫本もめくると、ぺらりと音がする。半生だ。
朝遅く、車に乗って、そんなカバンを後部座席に置いてでかけた。昼まで一時間くらいある。天気は曇り空で、ぽつぽつと雨が降っている。車の窓には軽いじんましんのように水滴が現われては、間のあいたワイパーにかき消されて行く。
おっさんから「ティピの中で火を炊くから遊びに来い」と言われたのだ。ティピとは、アメリカのインディアンの住んでいるテントで、白くて三角錐状の、縦穴式住居のような雰囲気のものだ。おっさんが昨年の夏に購入し
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