滑った感じ/八男(はちおとこ)
 
たものであり、なにやら握り飯のようでもある。そんな本を2、3冊カバンに入れて、安心したような気分になるのである。本当のものとは、体の中にあって、それは気とか息とか魂心とかいうもので、要するに、何かに思い入れて、それを持ち歩かないと安らがないのである。
 飲み屋で仲間と、本当のものという議題になったとき、いつもこの話をするのだが、わからんといって笑われる。笑われると嬉しい。
 
 桜満開の時なんかに、読破するには行き詰まった、入魂の文庫本を、お気に入りのちょっと黄ばんだ白いカバンに入れて、肩にかけて外出したりすると、華やかな光景のなかで、私の背中に、使い古しの革財布のような味が出ているような気
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