12月24日、快晴。/瀬崎 虎彦
 
のではなく、もう誰も好きになれないだけ、なんだ。けれど、その原因さえも僕には遠い出来事で、そのこと自体に感傷を憶えることもない。よく幼少期のトラウマで苦しむ人がいるのを理解できる気がする。本人は大人になって、頭の中で決着がついているはずなのに、可塑性の高い幼少期の精神のどこかにつけられた傷は(トラウマとはギリシア語で「傷」のことだ)、その人の生涯を捻じ曲げる。
 話が大げさになった。ただ僕はそういうことを考えながら、またヨーロッパへ帰る飛行機に乗っている。シートベルトを締めてゆっくりと目を閉じる。どの瞬間でもいいから、早く眠りに落ちたいと心から願っている。
 12月24日、快晴。
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