【140字小説】泣く女他/三州生桑
 



【ラーメン屋】
遺書は書いてなかった。彼は高層マンションの屋上の金網を乗り越えた。イヂメで自殺か、進路で悩んだ末に、といふ新聞見出しが目に浮かぶ。黄昏時の眼下の街は静かだった。ふと、ラーメン屋のチャルメラが聞こえてきて、少年の腹が鳴る。ラーメン屋の親父は、14歳の少年の命を救ったことを知らない。


【クリスマス】
この歳になると、子供の頃のクリスマスの思ひ出など何も憶えてゐない。学生時代に一度だけ彼女と過ごしたことがあるきりだ。あの夜に贈った黒猫のブローチは捨てられてしまっただらうか。「ねえパパ、サンタさん本当に来るかなぁ?」娘には彼女と同じ名前を付けた。私は一生そのことを後悔するだらう。




■三州生桑 140字小説Twitter■
http://twitter.com/sanshu_seiso
戻る   Point(3)