ガーベラさん/瀬崎 虎彦
を押して歩いた。入構証を返却したあと、正門の手前で左手に花束を持ったガーベラさんを見つけた。声をかけて挨拶をしようかとも思ったけれど、名前も知らないので軽く会釈だけをした。ガーベラさんはわたしに気づいて、それからとなりに停められているワゴン車の車体にある店の名前に目をやって、ああ、と言った。
「こんにちは」
「花屋さんの。どうも」
花束を頼む時の無駄のない口調はそのままに、場所だけがいつもと違っていた。
「今日は配達でうかがいました」
「ああ、そうですか」
「こちらの先生なのですか?」
え、とガーベラさんは驚いた顔をして、それから笑った。
「僕はまだ学生なんですが、週に一度こち
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