ガーベラさん/瀬崎 虎彦
 
卓に置かれていたそうだが、何人かの学生が見かねてちょうどいいサイズのフラワーベースを彼にプレゼントした。その頃ではガーベラさんは学生にとても人気のある先生になっていた(年齢が若かったこともあるだろうけれど)。ガーベラさんはそのフラワーベースをロッカーにしまって、授業のたびにそれを大事に取り出して使っていたことだろう。
 数年経って、ガーベラさんは別の大学の(今度は)正式な先生になった。今では花束を作ることはなくなって、自分の研究室にガーベラの鉢植えを置いている。けれど相変わらず授業のたびにそれを教室へ連れて行く。学生たちもそれを知っていて、彼をガーベラ先生とよぶ。
 ガーベラさんは時折その鉢を家に連れて帰り、別の鉢を連れて大学にいく。週末は鉢に植えられた沢山のガーベラの世話をして時間を過ごす。授業や学生のことを嬉しそうに話す主人の声に私は耳を傾けている。
戻る   Point(7)