小説/ふくだわらまんじゅうろう
 
小説を書きたい
短編でもいい
そう思うのならば
書けばいい
誰が読まなくとも
書けばいい
小説を書きたい
短編でもいい
雨が降ったり
風が吹いたり
地上は忙しい
そして日常
だけど君はぼくに
一篇の詩を
求めようとはしない
そんな健全で
漠然としたこころの荒野
「鷲のようになれたら」
君は言うんだ
君も小説を書きたいと
だけど君には青春も
パッションも
日常も
ない
そして蝋燭の灯し火のような
ささやかな愛情とかも
ない
あるのは文芸誌の遠まわしな
猿まわし
そして銀杏を含まない
茶碗蒸し
どうみても君は
小説を書きたいと
そして君には
いっしょに身投げして自殺する相手も
いない

小説を書きたい
短編でもいい
そう思うのならば
書けばいい
誰が読まなくとも
書けばいい


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