宇宙というインストゥルメンタル、あるいは逆再生された無音/robart
 
の動きで彼らを指揮し、鼓舞し、まとめあげる。エリック・サティの楽譜に書かれた「あなた自身を前提として」という難解な指示文も、アバドなら、あるいはそのタクトで演奏者たちに伝えきってしまうかもしれない。(演奏者たちがそれをどう表現し得るかは別として。)

「こんな退屈な曲、よく聴けるわね。」彼女は携帯をソファーに放り投げると、ハンドバッグからコンパクトミラーを取り出し、目元と前髪をチェックしながら口を開いた。「歌詞がない曲のどこがいいの?」
確かにそうだ。「はじめに言葉があった」とヨハネも書いている。
「もちろん、歌詞のある曲も聴くし、好きな歌詞もいっぱいある。」私は言葉を選びながらそれに答え
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