宇宙というインストゥルメンタル、あるいは逆再生された無音/robart
 

「人類は未だかつて宇宙で妊娠したことはないんだよ。」
「へえ。」大した興味もないという感じで、彼女はインスタントのブラックコーヒーに口を付ける。宇宙というにはあまりにも薄く、そして濁りすぎたそのコーヒーを彼女は何でもないように飲んでいる。味わってなどいないのだろう。ちょうど次の動作を行うためだけに必要なひとつの通過点のように、彼女はコーヒーを飲む。携帯電話を触る前にはコーヒーを一口飲まないと気が済まないのかもしれない。煙草の残り香が、僅かながら残っていたコーヒーの香りを消しつぶす。
案の定彼女は携帯電話を取り出し、メールを打つ。私は彼女の細い指を見つめる。細かく動き回る右手の親指。他の指は
[次のページ]
戻る   Point(0)