田舎の小さな駅の/Giton
 
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田舎の小さな駅の前にある
ドイツ人のパン屋さん
木造にペンキ塗りの扉を開けると
懐かしい小麦粉の匂いがした
パン屋のおじさんはいつも
カントリー風の派手なシャツにジーパン
粉で真っ白になった手でコーヒーを入れてくれた
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ぼくが毎朝同じ時間に行くと
テーブルにはパン屋さんの
小学生の男の子が腰かけて
ぼくらはミルクコーヒーをすすり
小さなカイザーをひとつずつかじった
「子供と会話できれば一人前」と聞いていたから
ぼくは一所懸命にドイツ語で話しかけたが
その子は聴いているのかいないのか
いつも生返事をするばかり
質問には答えなかった
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それからぼくは東京に戻り
10年たってその町を通りかかったとき
パン屋の店の前には青い目の青年がいて
ぼくは彼と合わせた目を離せなくなった
青年は達者な日本語で言った
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おかえりなさい!
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