0歳の詩人に /服部 剛
今、(遠い異国の空の下で、産声が上がった)
今、(夜の踏切で急ブレーキの悲鳴が、夜空を割った)
今夜、どんどん膨らんでゆく宇宙のなかに
今夜、みるみる病んでゆく街のなかに
世界の始まりと終わりを同時に告げる、いのちの声が
ほんの一瞬の間(ま)に、うまれる
昨夜の朗読会で
(広がってゆく年輪の中心に
今も
0歳の私、がいる・・・ )
と云った 年齢の無い詩人 と僕は
一枚の記念写真に、納まった
いつか旅先の料理屋で
(この身を犠牲にしても
最後迄
私は、闘うだろう・・・)
と云っていた、遠い空の下の詩友が
幼い娘を残して、二日前に世を去った
僕は今、誓う
昨日という日の別れ際
互いの手を握った 0歳の詩人 に
嘗(かつ)て旅先で
最初で最後の夕餉を共にした亡き詩友に
自らの、根源から湧き出ずる
言葉のうたを
赤児になった全身で
遥かな宇宙(そら)へ、叫ぶことを
戻る 編 削 Point(3)