口髭で人はノロけられるのか/robart
 
モーパッサンの短編に『口髭』というのがあって、口髭にある種のフェティッシュを感じる女性が延々と口髭愛を手紙にしたためているという作品なんだけれど、その手紙の結びにある、「最後に――口髭万歳!」という部分がどうも忘れられないの、と、たっぷりと口髭をはやした初老の男性を見ながら彼女が言った。早口に。(正確にそういったのかは定かではない。なにせとても早口にまくしたてられたのだ。)
「そう首に筋をいれながらしゃべらなくてもいいんじゃないか?」と僕は苦笑する。混雑したスターバックス。初老の男性は、少し突き出た腹に手をやりながら煙草を吸っていた。ドレッシーな白のポロシャツ(襟を立てている)と、光沢があるカー
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