どこかにあるかもしれないもうひとつ別の7月4日/robart
 

三島由紀夫の『金閣寺』を読んで、『金閣寺』を燃やしたくなった。
京都の鹿苑寺金閣ではない。三島由紀夫の『金閣寺』を燃やしたくなったのだ。文庫サイズの少し厚いその本を、一昨日街のブックセンターで購入した『金閣寺』を、どうしようもなく燃やしたくなったのだ。燃やさないわけにはいかないと思った。一頁一頁にびっしりと、しかし上品に印刷されたひとつひとつの文字が、小さなオレンジ色の炎によってじりじりと焦げついていくのを見届けたいと思った。三島由紀夫が31歳にして到達してしまった美文そのすべてを、しっかりと灰にしてしまわなければならなかった。少なくとも、いま持っている一冊だけでも。必ず。


「博士
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