嵐の海/結城 森士
 
 頬の痩せこけた男は、目を見開いて、波に揺れる闇の向こう側を凝視している。
 乱れた波長が羅針盤をおちょくる。
 男は夜の海で虚空を仰ぐ。
 すると、雨に揺らめいて光が瞬く。
 灯台の明りが傾く。
 島の緊急警報が唸る。
 唸ると、風は一層激しく泣いて、夜の闇が津波になって、漁村を覆いつくすそうです。

彼女は孤児だった
船乗りの男に拾われた

 彼女は目を瞑る。木々が緊張を高めると、風の泣き声は止まった。
 空に向かって手を振ると、流れ星が一筋、零れ落ちた。
 彼女が再び目を開くと、乱れた黒髪に、風が激しく雨を打ちつけていた。
 妥協を許さない空の暗さに、風はいつもにも増して、慟哭していたというのです。

彼女は夜半に家を出て
明くる朝、波打ち際で見つかった
男はついに戻らなかった
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