【超短編小説】走る僕の足/なかがわひろか
 
のだ。僕の人生は終わったも同然だった。そう考えると僕はこの暗黒の中にい続けることがもっとも安全な状況なのだということが分かった。僕の足は相変わらずどこかに向かっている。それはもしかしたらここから抜け出すための出口なのかもしれない。出てしまえば僕は一生追い回される生活を送るだろう。僕は必死で足の動きを止めようとした。ここから抜け出す必要はない。僕はこのままこの暗黒の世界に留まっておきたい。それでも僕の足は言うことを聞かなかった。それどころかさらにそのスピードを速めたように思えた。もしかしたら出口が近いのかもしれない。僕は目を閉じて何度も祈った。どうか歩みが止まるように、と。
目を開けるとペタペタという足音だけが聞こえた。真っ暗な世界の中で僕の足だけが浮き上がって僕の前を走っていくのが分かった。僕と足は分離され、僕の足だけが出口に向かって走り続けていた。僕はその場から動くことができず、もう留まることしかできなかった。それでも僕はどこか安心していた。僕の足音は少しずつ遠ざかった。
(おわり)

戻る   Point(0)