【超短編小説】走る僕の足/なかがわひろか
僕は真っ暗な中を走っていた。それは疑いようもないほどの暗黒の中だった。僕がなぜ走っているのか、当の本人である僕にも分からない。前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかも分からなかった。ただ僕は真っ暗な中を必死に足を動かしているに過ぎなかった。僕は息を切らせながら走っている。こんなに苦しい思いをしてまで走るのは、小学校のマラソン大会以来だった。確かあのときの僕は完走することができなかった。僕は走りながら一度目をぎゅっと瞑った。閉じた瞼の中にはさきほどと寸分変わらぬ暗黒が広がっていた。目を開いても、暗黒さは何も変わらない。さっきと異なる暗黒なのか、まったく同じものなのか。もちろん分かる術もない。
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