「落陽」(3/3)/月乃助
れでも子供のように娘は頷くと、ほほに涙が伝った。
四年の時を待ってくれると言う、それは春夏秋冬を四回繰り返さないとやってこない十六の季節の先の話。でも、その言葉に嘘の響きは少しもなかった。わずかばかりも。それだから、娘は信じてみようかと、今はもう景色に目を戻している彼の横顔を見た。
秋の町は、建物の間の木々が色付き、黄色、紅、そしてオレンジと鮮やかな色に染まっている。それでいてどこか賑やかさなどない落ち着いた雰囲気があった。
娘は、やっと思い出したのか、焼いてきたクッキーをバッグから出すと、彼に一つ差し出した。そして自分も一つ口にしてみる。彼の唇の味が消えてしまうと、ほんの少し後悔しながら。
彼の唇の味が残っているのか、焼いたクッキーはいつもよりも甘い味がする。
西の重なる雲の、わずかに切れたオレンジ色の雲間に、娘の思いが通じたのかうっすらと紅の落陽が姿を見せた。
赤い雲が広がり、光が濡れた足元を照らした。
それを見つめる彼の瞳も赤く輝き、娘のほほもまた、紅く染まった。(了)
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